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2008年11月21日

次官襲撃事件と奥田碩発言

【大気圏外】官僚の不法行為に「国民代表訴訟」の導入を―厚生次官連続襲撃「テロ説」で考える

 民間企業の役員が企業に損害を与えた場合、「株主代表訴訟」で役員に賠償させる制度があるが、官庁の官僚については「国民代表訴訟」はない。厚生省官僚によって巨額の損害を受けたと考える国民が、加害者の官僚に「報復」を決意したら現状ではテロ以外にない。そうさせないためにも、国の財産を毀損した官僚に国への賠償を求める制度を導入すべきだ。

◆脚光あびた「厚生省」
 カンが良いと言うべきか、あるいは悪いのか……。20日付でUPされた 
 <拝啓奥田碩様「厚労省の実態を知って下さい」>を書き上げたのは17日午前11時ごろ。どうやらこの日夕方から夜にかけて、「テロ」の疑いが濃厚だとされている元厚生事務次官宅連続襲撃事件の1件目が起きたらしい。

 ◆編集部の見識に拍手
 事件の真相は犯人が確定して初めて解明されるのだが、何故か警察は「厚生事務次官OBが狙われたテロ」説で動き、舛添要一厚労相が「政治目的の殺人は許せない」などと力んでいる。メディアは当然、その路線で大騒ぎしているから、厚生省(現厚労省)批判はタブーになりそうな成り行きだ。私の原稿が陽の目を見るかどうか心配だった。余計なことを心配せず、きちんと扱っていただいたJANJAN編集部の見識に、まず拍手を送っておきたい。

 ◆何故テロ説なのか?
 同じような手口で2人の元厚生次官が襲われた。その場合、2人に対して強い恨みを持っており、そして2人の住所を知っている人間を疑うのが、捜査の常道だろう。そうではなく、すぐに「元厚生次官が狙われたテロ」説が濃厚になる理由は何故か?

 ◆損害を償わせる手段なし
 その理由はたった1つ、故意または重大な過失によって国民に巨額の損害を与えた高級官僚に対して、国民が直接、補償を求める手段がないということであろう。

 ◆官庁にはない、民間の株主代表訴訟制度
 民間企業には「株主代表訴訟」という制度がある。国の各省庁を企業にたとえれば、株主は国民以外ではあり得ない。ところが官庁については「国民代表訴訟」がない。だから厚生省官僚によって巨額の損害を受けたと考えている国民が、加害者である官僚に対してなんらかの「報復」を目指した場合、テロ以外にないのが現状であろう。

 ◆国民代表訴訟制度つくったら
 官僚たちがこれほどテロを怖がっているのだったら、むしろ「株主代表訴訟」と同様の「国民代表訴訟」を制度化すべきではないか? この提言をするのが、本稿の目的である。

 ◆憲法15条の公務員罷免権
 「国民代表訴訟」を提言する法的根拠は、日本国憲法にある。憲法は第15条で、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めている。

 ◆17条の賠償請求権
 さらに第16条では「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」、第17条で「何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と規定している。

 ◆実現した被害者救済
 現実に薬害エイズ、薬害肝炎、さらにはハンセン氏病患者隔離などで被害者救済の措置がとられるのは、この第17条の規定による措置であろう。

 ◆救済資金は税金から支出
 しかし、国による救済措置の財源は、国民が納める税金にほかならならない。救済措置を実施すること自体が、納税者全体に対して損害を与えることになってしまう。

 ◆官僚の怠慢=納税者に被害
 具体的に言うと薬害エイズの場合、非加熱製剤の使用禁止措置をとらなかったことによって、多数の人々がエイズ患者となってしまった。その因果関係が裁判で認定され、国は患者たちに対して賠償金を支払うことになった。その支払いは税金から行われている。非加熱製剤の使用禁止措置を怠ったという厚生省官僚の不法行為が、納税者全体に被害を与えているのである。

 ◆民間企業では取締役負担も
 これを企業の場合でいえば、非加熱製剤を製造していた製薬会社が被害者に損害賠償をする。その賠償金は企業の収益の中から支出される。

 賠償金を支払わざるを得なくなった事態は、担当役員の故意または重大な過失という不法行為があったから出現したと考える。担当役員は企業に対して、重大な損失を与えたのだから、応分の損害賠償を企業に対して支払え……。こういう主張を裁判で展開するのが株主代表訴訟である。

 ◆50年に認められる
 株主代表訴訟は1950年の商法全面改正によって認められた。このときの商法改正は、取締役会の権限を強化し、その分、株主総会の議決を要する事項が減少した。それだけでは株主の権利がなおざりにされる。それで、取締役会の不法行為が企業に損害を与えた場合、取締役が連帯して賠償支払いの義務を負う規定が導入されたのである。

 ◆財界は嫌がる
 財界は一貫して、株主代表訴訟を嫌がってきた。総会屋が経営者への脅しの手段に利用したり、市民運動が「企業性悪説」的な世論を広めるために利用したりする。いずれも正常な企業活動を妨害する、という理由だ。しかし日本の官僚機構は、そうした企業エゴ的主張には屈しない。

 ◆整備された関係法令
 1993年の商法大改正では、株主代表訴訟を起こしやすくする規定が盛り込まれた。2005年に制定された会社法では、株主代表訴訟の規定が精緻に整備された。いまや株式会社の役員会で何かを決定するさいは、「株主代表訴訟を起こされ、敗訴するような内容が含まれない」ことが第1条件となっているとさえいわれる。

 ◆官僚たちも強く意識?
 株主代表訴訟について、こういう展開があったのだから、関係する官僚たちは当然、「国民代表訴訟」のことも意識しているはずだ。官僚のトップで、民間企業の取締役に該当する人々が、不法行為によって国の財産を毀損した場合、当然、国に対する賠償支払いの義務があるという規定は、法理論的にあってしかるべきなのだ。

 ◆「指定職」は取締役準拠の待遇
 官僚たちの中に、民間企業の取締役に該当する人たちはいない、とお考えの方もいると思われる。しかしそれは全く事実に反する。官僚たちの給与水準は、同クラスの民間企業従業員給与に「準拠」して決められることになっている。中央省庁の局長・審議官などの地位にある官僚たちは「指定職」とランクづけられている。指定職の給与水準は、民間企業の取締役に準拠することになっている。つまり審議官・局長は民間企業の取締役と同等なのである。

 ◆社長は次官、大臣はお飾り会長
 [ 次官という肩書きは、各省庁のナンバー2との印象を与えるものだが、じつは次官が社長なのである。大臣がトップだと思われがちだが、大臣は実力のない「会長」にすぎない。

 企業でも官庁でも、人事とカネの動かし方を握ってこそトップといえる。官庁で人事とカネの双方を握っているのは次官だ。大臣は両方とも関与させてもらえない。

 ◆大臣がトップとなる時は……
 トップとして扱われるのは、国民にお詫びする必要があるような不祥事が起きたときだけだ。大臣がトップとしての責任をとって辞める。事実上のトップである次官はのうのうとしていればいいのだから、これほどラクなことはない。

 ◆事務次官会議で決定・閣議は署名の儀式
 重要事項は閣議決定しているじゃないかとおっしゃる方もいるだろう。しかし閣議の前日には事務次官会議が行われる。閣議決定されるすべての事項は事務次官会議で了承されているのである。

 閣議を会議だと誤解しておられる方も多いが、メンバーが発言するための会議ではない。官房長官が案件のタイトルを読み上げるごとに、その件の書類が出てくる。次つぎ各大臣の手許に回され、大臣たちは所定の欄に署名する(花押を書く)ことになっている。

 ◆集団決済のため集められるだけの大臣
 それだけで忙しくて、発言するどころではない。つまり閣議は単なるセレモニーにすぎない。目的は各大臣に決済印を押させることである。週2回、大臣を一堂に集めれば、書類を持ち回る手間が省ける。官僚たちにとってまことに都合のよい儀式である。]

 ◆責任・義務と無縁な指定職
 いずれにせよ、民間企業の取締役たちは、株主代表訴訟によって責任を問われ、場合によっては何億円もの損害賠償を企業に支払わなければならない。これに対して国の各省庁を支配する「指定職」は何十億円もの損害を国に与えても、損害賠償を支払う義務は全くない。これほど結構なポジションはない、というのが彼らの共通の思いだろう。

 ◆「目には目を」に画期的な意義
 話はまったく変わるが「目には目を」というのがハンムラビ法典の原則であり、それは極めて野蛮なルールだと思われている。しかし法制史のうえでは、「応報刑」の原則が確立されたこと自体、画期的なことだったとされているという。

 ◆「応報刑」以前の報復は?
 それ以前は片腕を折られるという程度のケガをさせられただけで、加害者を殺すという報復が一般的であった。加害と報復がほぼ見合ったものでなければならないという「目には目を」原則こそ、刑法の出発点だったとされる。

 ◆官僚と国民の関係はハンムラビ法典以前
 官僚の世界で羽振りを効かせているのは法学部出身者だから、こんなことは「常識」だろう。

 厚生省官僚は、国民に大きな損害を与えている。それなのに国民は、彼らに対してその償いをさせる合法的な手段を持たない。民間企業の株主代表訴訟に見合う国民代表訴訟の制度はない。つまり官僚の不法行為の責任を問う法体系はハンムラビ法典以前である。

 ◆「殺す以外に報復手段なし」という推測
 厚生省が国民に与えた損害を問おうという強い意思を持った国民が1人いた。彼が合法的に取り得る手段はない。そのためハンムラビ法典以前の報復手段を実施した。その結果、元次官2人の自宅が襲われ、1人は妻とともに殺害され、1人は妻が重体に陥った……。以上が官僚の世界で共通の「推測」なのではないか。

 ◆社説や1面コラムのテーマになった
 新聞各紙の18日付朝刊を見ると、朝日・毎日・東京はこの事件を社説のテーマとし、読売・日経も1面コラムでとり上げた。それぞれ内容を読めるように紹介しておこう。

 【朝日】社説=元次官宅襲撃―社会の敵を許さない
 【毎日】社説=元厚生次官宅連続襲撃 類例を見ぬ卑劣な犯行
 【東京】社説=元次官宅襲撃 許されぬ卑劣な犯罪だ
 【読売】=編集手帳
 【日経】=春秋

 ◆社会の敵、卑劣などと非難
 社説のタイトルからも分かるとおり「社会の敵」「卑劣な犯行(犯罪)」などと断罪する言葉が並んでいる。通常の殺人でももちろん「卑劣」であることは言うまでもないが、社説や1面コラムでとりあげるのは珍しい。厚生事務次官を狙ったテロという官僚の世界でのショックに、完全に同調しているのだろう。

 ◆単純でない今後の展開
 テロであるのか否か、今後の捜査の展開で分かるはずだ、とお考えの方もいらっしゃるだろうが、ことは単純ではない。

 ◆テロなら早期解決のはず
 仮にテロだとするなら、1週間も経てば容疑者は逮捕されるだろう。「お粗末厚生省」を断罪するため事務次官を連続襲撃したのだとすると、犯人はそのことを世間に訴えたいはずだ。たまたま現場で捕まらなかったからといって、逃亡・沈黙を続けるのなら、何のために殺人という犯罪まで犯したのか? 意味がないということになる。テロの場合なら、犯行後1週間程度で、犯人の自首に近い形で解決するはずだ。

 ◆手口から見れば恨み
 しかしテロの場合、刺殺という手口は珍しい。メッタ突きという犯行は、強い恨みと結びついていると考えるのが捜査の常道だ。この場合も、2人の元次官に対して強い恨みを持っている人物は少数だろうから、捜査本部が割り出すことは難しくはない。まして2人の住所が分かる人に限定されるのだから、それほど難事件ではないはずだ。

 ◆「恨み」なら黒星
 恨みによる犯行となった場合、警察はそのまま捜査を進展させるだろうか。警察全体としても元厚生・厚労次官宅の警備を強化するなど「テロ」の線で動き始めているのである。単なる怨恨だとすると、警察庁にとっても、旧内務省系の「兄弟官庁」厚労省にとっても黒星となってしまう。

 ◆迷宮入りの可能性
 この場合、犯人はオモテに出たいわけではない。逮捕・起訴されなければいちばんいいのである。捜査のスキをついたような形で、国外に逃亡してしまったりするのではなかろうか。

 ◆難しい真相解明
 そのスキを、警察がわざとつくったなどというところまで突きとめ、報道しようとする新聞記者はいないのではないか? 事件が迷宮入りとなった場合の真相にこそ、私たちは注目する必要がある。

http://www.news.janjan.jp/column/0811/0811201939/1.php


とても面白いコラムです。
大賛成ですな。



最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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